8月号「所感」

 

今月の所感のご紹介となります。 

*2026年8月号 所感 ********************

 暑中お見舞い申し上げます。
 例年であれば厳しい暑さに見舞われる頃ですが、 今年は梅雨寒を感じる日もあり、 比較的過ごしやすい日が続いております。 皆様いかがお過ごしでしょうか。
 毎月の競書課題に真摯に向き合い、 一文字一文字と誠実に対話を重ねていることと拝察しております。 日々の積み重ねこそが書の力となり、 自身の成長へとつながっていくことでしょう。 焦ることなく、 自分の歩幅で筆を進めていただきたいと思います。
 今回は、 支部に所属せず、 個人で 『書鏡』 の課題に取り組んでくださっている会員の皆様へ、 耕南千字文の楷書について、 少しお話ししたいと思います。

 先師・長谷川耕南の千字文は、 羊毛筆を用いて揮毫されたものであり、 一見すると端正な楷書ですが、 その中には隷書の趣や行書の流れが巧みに織り込まれています。 そのため、 単純に楷書として形だけを追いかけても、 耕南らしい表現には近づくことができません。
 羊毛筆ならではの柔らかさと弾力を生かしながら、 起筆・送筆・収筆の変化を丁寧に表現し、 一画ごとの呼吸を大切にすることが肝要です。 筆を必要以上に立てすぎず、 穂先だけで線を引こうとせず、 穂全体を上手に使いながら運筆することで、 豊かな線質が生まれてきます。
 また、 耕南の楷書には隷意が多く見られます。 横画のゆったりとした伸びや、 わずかな波勢、 結体の安定感などは隷書を学ぶことで理解が深まります。  一方で、 字によっては行書的な筆脈が感じられ、 点画が独立しているようでありながら、 全体には自然な流れが生まれています。 この絶妙な調和こそが耕南楷書の大きな魅力であり、 同時に難しさでもあります。
 そのため、 お手本を見ながら 「形を写す」 ことだけに意識を向けるのではなく、 「なぜこの線になっているのか」 「なぜこの方向へ筆が動いているのか」 を考えながら臨書することが大切です。 一字一字を観察し、 筆の入り方や力の加減、 穂先の使い方まで想像しながら書く習慣を身につけることで、 理解は飛躍的に深まるでしょう。

 上達への近道はありません。 しかし、 毎月少しずつでも継続して筆を執ることで、 昨日見えなかったことが今日見えるようになり、 書けなかった線が自然と書ける日が必ず訪れます。 書は競争ではなく、 自分自身との対話です。 昨日の自分より一歩でも前へ進めたなら、 それは大きな成長と言えるでしょう。
 小生も皆様と同じように、 今なお学びの途中にあります。 だからこそ、 書の奥深さに魅了され、 筆を持つ喜びを感じ続けています。 これからも耕南の書を通して、 その精神や技法をともに学び、 一歩一歩着実に歩んでまいりましょう。
 酷暑に向かう折、 どうぞご自愛いただき、 充実した書の時間をお過ごしくださいますよう心よりお祈り申し上げます。
 一人で学ぶ道は、 ときに孤独を感じることもあるでしょう。 しかし、 全国には同じ課題に向き合い、 同じ志を持って筆を執る仲間がいます。 書鏡誌を通して心はつながっています。 どうぞ自信を持って、 これからも書の道を歩んでください。
 
 毎年恒例の夏季御嶽山講習会の募集も行っております。 是非とも一歩踏み出して下さい。 ご参加をお待ちしております。


*(耕史記)****************************