3月号「所感」

 日本書鏡院の新たな試みをご紹介と、介護を通して感じられた会長の想いをご紹介いたします。

*2021年3月号 所感  ********************  

日本書鏡院として今年新たな取り組みを始めた。オンライン授業である。

独学で勉強している方、 仕事が忙しくて時間に間に合わない方、 海外や遠方におり、 教室に通えない方から在宅で手軽に書を楽しみたい方まで、 パソコン、 タブレット、 スマートフォンなどさまざまな端末を通していつでも好きな時に書に触れる取り組みである。
緊急事態宣言下の中、YouTubeで月例競書を動画配信させていただいているが、 これはあくまで一方通行であるため、 なかなかコミュニケーションが取れない。 小生も機械がとにかく苦手でなかなかうまく撮影ができず、 試行錯誤しているが、 きっと皆さんの中にも苦手な方がおられるであろう。 一緒にオンラインを始める第一歩として歩むための手助けをしたいと考える。 一人でも多くの方とコミュニケーションを計り、 一人一人の書の向上のため、 密の時間を十分エンジョイしてもらうためにも丁寧に接していきたいと考える。

 緊急事態宣言が発出されている一月中旬、 十カ月ぶりに父が自宅に一時帰宅をした。 父に会ったのは四月以来であった。 本来なら朝から夜まで面会が可能なはずなのに、 このコロナ禍の中、 テレビ面会や携帯電話からの様子で判断するしかなかった十カ月であった。 病院→リハビリテーション病院→老人保健施設と転院していた父も大変だったことだろう。 父の帰宅は私達家族が、 簡単に自宅に帰したいという考えだけで実現したものではない。 当然母だけで介護はできるものではない。小生も家族で話し、 ヘルパーの仕事をしている妻の友人に相談し、 実際介護をしている色々な方からのご助言を頂き、 その上でまず家族五人の意思確認のもと自宅への帰宅に向けて動き出した。

 まず二階を生活拠点にしているため、 車いすの父をどのように上げるか。 まずそこからのスタートだった。 なかばここで諦めていたが 「移動用車いすリフト」 という機械があり、 操作の資格をとれば父を上げ下ろしができるということで、 前もって孫である泰史が資格を取り、 今回自宅にスムーズに迎え入れることができた。

 父が十カ月ぶりに家に着き、 「ここは別天地だ」 と最初に発した言葉が印象的だった。 指を完全に伸ばすことができないために、 曲がった指のままで両手を合わせハート形にし、 「ありがとう」 とつぶやく。 父の顔も艶があり、 相も変わらず食事の時間にはうるさく、 せっかちな父を見て、なぜかホッとした。

 身体がなかなか思うように動かないために、 母は三日で腰を痛め、 高校生の華子が母と一緒に父の身体を動かしたり、 夜に泰史が様子を見に行ったりと私達夫婦が出来ないときにも文句ひとつ言わずそれでもサポートに徹してくれる。 本当にありがたい限りだ。 家族が出来ることに限界があると痛切に実感している。

 今回帰宅へ向けて 「要介護5」 の認定をうけた父を受け入れるにあたり、 「自宅介護」 は、 家族だけで行うことは容易ではなく、 たくさんの携わる全ての人々がいることによって成り立つことを改めて認識した。 業者九社、 延べ二十人程の方々が父一人のためにローテーションで私達をフォローしてくださっているのだが、 お一人お一人がとても素晴らしいお人柄で、 この方々に助けていただいているおかげで父も自宅で生活できる。

 介護とは程遠い生活をしてきた小生だが、 ここでも改めて人と人とのご縁が大切で、 お世話する側、 お世話される側がともにこの縁を大切に温めていくことが楽しい介護生活につながるのではないかと考える。

*(耕史記)****************************


令和三年 三月号課題参考『設席鼓瑟吹笙』
楷書
https://youtu.be/uaN4lPMj9gQ

行書
https://youtu.be/TCptaIsdiKg

草書
https://youtu.be/Z2kz9fALxfA

一字競書
https://youtu.be/AmyErBFMeyU